福島第一原発事故とその汚染水処理に伴う廃棄物

 福島第一原子力発電所事故が発生し、2021年の本年で10年が経過した。現在もなお、炉心の冷却を行い続ける必要があるため、冷却後の水が汚染水として継続的に発生し続けており、その汚染水中に含まれる放射性核種(セシウム137など)の除染処理によって生じる放射性二次廃棄物も必然的に発生し続けている。廃棄物は、焼却処理は好ましくないとされているため、放射性核種の浸出を遅延可能にする機能を有する材料を用いて固化体にした後に地中で処分されることが検討されている。固化体にすれば、移動や貯蔵が容易となり、放射性核種が拡散するリスクが低減されると期待できる。固化体に求められることには、保管および処分に適した科学的安定性を有することや、容易な処理方法で早期に処理できることなどが挙げられる。

 現在、固化体にする際の材料にはガラスやセメントが主に用いられており、ガラス固化体は化学的に安定であることや高濃度で固化可能であること、セメント固化体は工程が簡単であることや二次廃棄物が抑制可能であることなどが長所として挙げられる。しかし、両者ともに短所があり、ガラス固化体は長期間の保管を経なければ余裕震度処分相当であることやオフガス処理に伴って放射性二次廃棄物が発生すること、セメント固化体は放射線の影響によって経年変化することや放射線分解による水素発生による水素爆発のリスクを低減するために放射性廃棄物の含有量が限定されることなどが考えられている。そのため、このような短所を解決するポテンシャルを持つ材料として、アルカリ刺激材料が期待されている。

アルカリ刺激材料とは

 アルカリ刺激材料とは、メタカオリンのようなアルミノケイ酸塩鉱物に水ガラス等のアルカリ刺激剤を添加して硬化させた材料のことである。セメントの代替材料としてコンクリートの材料などに用いられている。アルカリ刺激材料は、セメントと比べて自由水の含有量が少ないため比較的大量の放射性廃棄物が含有できる。また、全体の固化体量を抑制できることや、放射性二次廃棄物が発生しないこと、それぞれの材料の配合比が明らかであれば合成が容易であることも長所であると考えられている。また、アルカリ刺激材料は長期の時間経過によって出発物質が溶解して新たに二次生成物が生成しマトリックスを構成することが分かっており、この二次生成物がCsなどの放射性核種を収着する可能性がある。これにより、アルカリ刺激材料固化体中の吸着材から放射性核種が浸出した場合も、それらの二次生成物がそれらを収着することが期待されている。

 アルカリ刺激材料を作製する上で、水ガラスとしてケイ酸カリウム溶液あるいはケイ酸ナトリウム溶液を用いた場合は、カリウムアルミノシリケート水和物(K-A-S-H)あるいはナトリウムアルミノシリケート水和物(N-A-S-H)が生成し、アルカリ刺激材料のマトリックスを構成する。K-A-S-HやN-A-S-HはSiO4およびAlO4四面体が三次元方向に連なった、ゼオライトに類似した構造を持つと考えられており、ゼオライトと同様に、構造の骨格の主を占めるSiO4四面体の一部がAlO4四面体に置き換わることで構造の一部が負に帯電し、そのように負に帯電している細孔内に陽イオンを吸着すると考えられている。